不適切の境界線

最近,東京都の青少年健全育成条例の改定内容をめぐって,様々な議論が世間を賑わせております.
その内容とは,未成年のキャラクターの性行為(あるいはそれに類する行為)を描写している漫画やアニメーションを規制するというものです.
この案が出された当初,規制の内容が曖昧すぎる,どのラインがOKでどこからがNGなのかということがわからないということで多くの批判がなされました.
それを受け,東京都は4月26日,多くの質問に回答するという形で,「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集」というものを作成し発表しました.
これは制度について具体的に言及されたもので,ある程度の輪郭が見えるようなものになっていると思います.しかし,これでもまだ曖昧であるという批判は,もうしばらくの間は続くでしょう.

そもそも,「不適切」とは何なのでしょうか?
我々のようにコンテンツフィルタなど,情報をフィルタリングするようなものを作成する者にとって一番問題になるのもこの点です.
Hagakureを例にとって言えば,このアプリケーションはこれから閲覧するサイトがどの程度不適切かを確率的に判断するために,あらかじめアダルトや出会い系といった「不適切な」サイトのデータを大量に学習しています.この学習データを集めるのはコンピュータではなく,人間である私です.
私が様々なサイトを見て,「このサイトは不適切である」と判断すれば,それを不適切データとして収集します.
当該のサイトが,明らかに性行為を行っている画像を載せているような場合は,判断は実に簡単です.しかし,ネット上には判断に苦しむようなサイトがかなり多くあります.
たとえば,女性用下着を販売するサイトを考えてみてください.女の子がネットサーフィンをするとき,下着のサイトを見るのはそんなに不自然なことではありません.しかし,男の子がそのサイトを閲覧する場合には,その行為はやや不適切に見えるでしょう.じゃあ,その下着販売サイトは「不適切」と判断すべきなのでしょうか?
また,少し極端な例になりますが,靴下というものに対して性的な興奮を覚えてしまう人たちがいたとします.そういう男の人が少数でもいる以上,靴下を販売するサイトや,靴下を穿いた女性の画像が掲載されているサイトは「不適切」と判断すべきなのでしょうか?
このようなことを判断するのは,実はアプリケーション開発における技術的な問題以上に頭を悩ませることだったりするのです.そこで,私は私なりの不適切な境界線というものを定めて,それに従ってデータ収集を行いました.

結局のところ,「不適切」というのは人によって異なるものです.人によって異なるから,大勢で議論してもどうしても輪郭がはっきりしてこない.
輪郭がはっきりしないものを子どもに押しつけられても,子どもは戸惑うばかりでしょう.

子どもにとって何が適切で,何が不適切か,それを最終的に判断するのは保護者の方々です.もちろん,今東京都で行われているような議論に耳を傾けることも,様々な視点を取り入れるという点で重要です.ただし,そこでなされている議論というのは多分に曖昧なものを含んでいるという認識をした上で,自分なりの不適切な境界線というものを考えてみるというのは,有益な作業なのではないかと思っています.

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